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Shiga 2021

場所に縛られず様々なことが出来る時代。
景色の良い琵琶湖沿いの土地を探し始めて3年ほど経った時、築100年の空き家と出会い、私たちの住宅兼アトリエ・イベントスペースにリノベーションした。
20年間空き家であった家屋は、白蟻に喰われ柱は数本浮き梁にまで到達する勢いであった。
今回の様なリノベーションは意外に時間やお金や手間、制約もかかる。解体して新築する方が安く工事もやり易く早かったであろう。しかし、スクラップ&ビルドが繰り返される中、単純にその地にあったものは出来るだけ使い、新築では表現出来ない部分を残したい思いから、リノベーションすることを選んだ。

▪閉じることと開くこと。
玄関の大きな引き戸を開けると琵琶湖の景色が飛び込んでくる。訪れる人たちの視界から一旦琵琶湖を遮るように道路側の開口をあえて少なくし閉じることで生まれた情景。
一方で閉じるだけでは閉鎖感が出てしまうので、道路側の建物一部を減築し、縁側のような部分をつくることで街行く人が座ったり、コーヒーを淹れたりできるようなカウンターを設置し、家を街に開くような計画もしている。
中間期には玄関の扉を開け放ってみたいとも思う。家を街に開くことでどのようなことが起きるのか楽しみな部分もある。

▪空間のシェア
延べ床面積28坪のスペース。ここに居住空間、事務所、イベントスペースを確保することは単純に考えると無理があった。しかしそれらの振り分ける空間をシェアすることとした。一階には普段居住空間であるフリースペースとキッチンスペースがある。それらのスペースを打合せやイベント時に使用することにより、限られたスペースでも全ての機能を満たす空間になると考えた。ギャラリー展示期間中は作家さんの作品に触れながらの生活になるかもしれない。このように職住分離から職住一体になることは子供や私達にとっても新たな出会いとデザイン思考向上の始まりになるのかもしれない。

▪資源の再利用による新旧共存と職人・アーティストとの共創
この建物の解体時に出た床板、ガラス、石を再利用した。
鉄職人松本さんによる鉄のフレームを床板と組み合わせ、打合せテーブルに再生させた。
ガラスはアーティスト周防さんにより鏡へと生まれ変わった。
延べ石をエントランス踏み石に。
キッチン壁は左官職人下原さんと打合せを重ね出来上がったシンプルなモルタル左官を荒く仕上げた壁と、鉄職人松本さんによる無骨な鉄棚が壁から伸びる。対面階段吹抜にはそれらと呼応するように、和紙職人ハタノワタルさんによる柔らかな和紙貼が大きな壁面に広がる。木、モルタル、鉄、和紙…それらが調和する空間になった。
外観は細い杉板で目地を取りながら留めていくことで、新たな装いになりつつ、かつての風貌を延長させ、街に馴染ませた。

 
制約がかかることで新しく生まれるモノがある。便利であることや、最新であること、部屋が広いこと…それらがなくとも、生活の場所、空間、自然との関わりで心地よく暮らすことが出来る。豊かさとは、心地よく暮らすことなのかもしれない。

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工事内容/リノベーション
業務内容/設計監理
所在地/滋賀県高島市今津町
用途/住宅・アトリエ・イベントスペース

写真/貝出翔太郎
(4.5.19.30枚目のみ別)

施工/株式会社Blue Wood Work

別途施工
和紙/ハタノワタル
テーブル・キッチン鉄棚/HALO 松本健司
鏡/HACOMIDORI 周防苑子
外構/鶴園外構店

構造/木造
基礎/べた基礎
階数/地上2階建て
軒高/5,155mm 最高高さ/6,400mm
敷地面積/113㎡
1階床面積/58.07㎡
2階床面積/36.48㎡
建築面積/63.21㎡(建蔽率55.93% 許容60%)
延床面積/94.55㎡(容積率83.67% 許容200%)

工程
設計期間/2019年9月~2020年9月
施工期間/2020年10月~2021年3月

敷地条件
地域地区/第1種住居地域
道路幅員/東7.0m
駐車場/1台